HOW THIS UNIVERSE IS MADE

この宇宙の描き方

「時速10万光年」の星空は、論文と観測データの数値から、宇宙船が動くたびに計算して映しています。本物の数値で描けば、星までの遠さそのものを体で感じられるはずだと考えたからです。このページでは、画面に見えているものを何からどう計算しているのかを、出典とともに説明します。

画面の中では、それぞれの情報に次の印を付けて区別しています。

  1. 星の位置 — 観測された約194万個
  2. 星の色は温度で決まる
  3. 星の明るさは距離で変わる
  4. 塵による減光と赤み — 3次元の塵地図
  5. 惑星・月・人工衛星は、きょうの位置に
  6. 銀河の中心 — いて座A*とS星
  7. 観測とモデルの境目
  8. AIを使ったところ、使っていないところ

1星の位置 — 観測された約194万個

観測星は、欧州宇宙機関(ESA)のガイア衛星の第3期データ(Gaia DR3)から、見かけの明るさがG等級11.5より明るく、年周視差が誤差の5倍より大きい(距離がよく測れている)星を選んで、実際の位置に置いています。距離は、視差に明るさや色の情報を合わせて推定した Bailer-Jones ほか(2021年)の値です。ガイアで測りにくいとても明るい星などは、ヒッパルコス衛星の新整理版(van Leeuwen 2007)で補っています。

こうして3次元に並べた星を地球から見ると、実際の夜空と同じ星座が見えます。地球を離れるとオリオン座や北斗七星の形が崩れていくのは、同じ星座の星でも、地球からの距離がまったく違うからです。

出典:Gaia Collaboration(Gaia DR3, 2023)/Bailer-Jones et al. 2021, AJ 161, 147/van Leeuwen 2007, A&A 474, 653

2星の色は温度で決まる

計算もとになるのは、星の表面温度(有効温度)です。温度は、ガイアのスペクトルから推定された値(GSP-Phot)か、星の色から求めた値です。名前の知られた明るい星のうち31個は、論文で測られた温度を使っています。たとえばベテルギウスは 3,779 K(Borisov ほか 2023年)、リゲルは 12,100 K(Przybilla ほか 2010年)です。

計算の手順

  1. プランクの式で、その温度の物体(黒体)が波長ごとに出す光の強さを求めます。
  2. 人の目の色の感じ方を表す CIE 1931 等色関数(5 nm刻み)を掛けて足し合わせ、色を表す3つの値(XYZ)にします。
  3. XYZ を、画面の色の規格 sRGB に変換します。

B(λ, T) = (2hc² / λ⁵) · 1 / (exp(hc / λkT) − 1)

本物の星の色は、思っているよりずっと淡い色です。色を誇張して見せる「強調」表示は設定で選べますが、最初は本当の色で表示しています。

ためしてみる:温度を変えると、星の色はどう変わる?

ここで使っているのは、作品の中で星の色を決めているのと同じプログラムです(明るさはそろえて、色合いだけを表示しています)。

出典:CIE 1931 2°等色関数(CVRL)/sRGB(IEC 61966-2-1)/Borisov et al. 2023, ApJS 266, 11/Przybilla et al. 2010, A&A 517, A38/太陽の温度 IAU 2015 Resolution B3

3星の明るさは距離で変わる

計算カタログには、地球から見た明るさと距離から逆算した、星そのものの明るさ(絶対等級)が入っています。そこに宇宙船からの距離を入れて、いま見えている明るさを毎フレーム計算します。

m = M + 5 log₁₀(d / 10 pc)

光の量は距離の2乗に反比例するので、距離が2倍になると明るさは4分の1になります。近づけば明るく、遠ざかれば暗くなります。

画面に描く星の点の大きさは見やすいように調整していますが、点が画面に置く光の総量は、等級から決まる量のまま変えていません。そのため、たくさんの暗い星の光と、天の川の淡い光が、同じ単位で正しく足し合わされます。

ためしてみる:同じ星を遠くへ動かすと?

4塵による減光と赤み — 3次元の塵地図

計算星と宇宙船のあいだに星間塵(宇宙の細かなちり)があると、星の光は弱められます。青い光ほど強く弱められるので、塵の向こうの星は暗く、赤っぽく見えます。夕日が赤く見えるのと似た仕組みです。

太陽のまわりの塵は、Edenhofer ほか(2024年)がガイアなどの観測から作った3次元の塵の地図を使っています。地図の外側は、なめらかな塵の円盤のモデル(厚みは Drimmel & Spergel 2001)で補っています。星から宇宙船までの視線に沿って塵を足し合わせ、色ごとの弱まり方(Cardelli ほか 1989年の比)を掛けています。

地球から見たときは、ガイアが星ごとに推定した減光の値そのものになるようにしています。モデル宇宙船が動いたときに通る塵が変わる分は、塵の地図とモデルからの計算です。

出典:Edenhofer et al. 2024, A&A 685, A82/Cardelli, Clayton & Mathis 1989, ApJ 345, 245/Drimmel & Spergel 2001, ApJ 556, 181

5惑星・月・人工衛星は、きょうの位置に

計算惑星と月の位置は、天体暦の計算ライブラリ astronomy-engine で、その日の日時から求めています。結果は NASA ジェット推進研究所(JPL)の天体暦サービス Horizons の値と突き合わせ、一致を確認済みです。探査機ボイジャー1号も、いまいる場所に置いています。

観測惑星の表面の模様は、カッシーニやボイジャーなどの探査機が撮影した画像から作った地図です。

計算地球のまわりの人工衛星は、CelesTrak が公開している実際の軌道データ(米宇宙軍の追跡による軌道要素)から、SGP4 という標準の方法で位置を計算しています。データの取得日は画面に出ます。

出典:astronomy-engine(Don Cross)/JPL Horizons/NASA/JPL/Space Science Institute ほか/CelesTrak(T. S. Kelso)、SGP4(Vallado et al. 2006)

6銀河の中心 — いて座A*とS星

観測天の川銀河の中心には、太陽の約430万倍の質量をもつブラックホール「いて座A*」があります。太陽からの距離は約8.3キロパーセク(約2万7千光年)です。どちらも GRAVITY 共同研究の2024年の測定値で、この距離が作品全体の銀河の大きさの基準になっています。

ブラックホールのまわりでは、S2(約16年で1周)をはじめとするS星が、観測された軌道のとおりに回っています。S2 の軌道は GRAVITY 共同研究(2024年)、ほかのS星は Gillessen ほか(2017年)の軌道要素です。これらの星の観測は、2020年のノーベル物理学賞につながりました。計算ブラックホールのそばでは、重力で光が曲がる「重力レンズ」も計算して描いています。

出典:GRAVITY Collaboration 2024/Gillessen et al. 2017, ApJ 837, 30

7観測とモデルの境目

ガイアが測れるのは、太陽から比較的近い星が中心です。銀河の遠い側の星の多くや、塵に隠れた星は観測されていません。そこで、観測が届かない部分は物理モデルで補っています。

画面に見えるものどう作っているか
観測星の位置・明るさ・温度Gaia DR3・ヒッパルコスのカタログ(約194万個)
モデル天の川の淡い光一つ一つは見分けられない無数の星の光。円盤・棒状構造(Wegg ほか 2015年)・渦巻き腕(Reid ほか 2019年)などの銀河モデルから計算
モデル遠くの領域の星天の川の淡い光と同じ銀河モデルから生成した星。光の総量は変えずに、見えるはずの星として描く。名前は付けず、表示を切り替えられる
モデル銀河全体の形外から見た渦巻きの形は、観測にもとづくモデル。表示の設定では、モデルから描いている層に「モデル」の印を付けている

モデルの星が多い場所に入ると、画面にお知らせが出ます。星を足したり色を盛ったりすれば派手にはなりますが、それでは本物の銀河ではなくなるので、やっていません。

出典:Wegg, Gerhard & Portail 2015, MNRAS 450, 4050/Reid et al. 2019, ApJ 885, 131/Bahcall & Soneira 1980(光度関数)ほか

8AIを使ったところ、使っていないところ

出典の一覧と、誤りの報告

使っているすべてのデータと出典・ライセンスは、作品内の「この作品について・クレジット」と、出典とライセンスの詳細(ASSET_CREDITS.md)に載せています。計算や説明に誤りを見つけたら、info@3pt.co.jp か、作品内のご意見フォームから教えてください。

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